彼女の、華麗かつ着実なキャリアの第一歩となる、デビューアルバム、‘01年作。1
まず、先行シングルの #4.‘Fallin’ ‘ が素晴らしいのです。 今どきこんな?と思う位、ブルース/ゴスペル風味な渋い三連バラード。 アカペラから始まり、美しくも力強いタッチのピアノに導かれるように徐々に熱を帯びていく演奏。 最後にはゴスペルクワイア、ストリングまで加わるドラマチックな展開。 そして、何よりも「ソウルフル」な歌声と節回しに虜になったのでした。
待ちに待ったアルバムは、全曲捨て曲無しの充実盤。 彼女の弾くピアノが全体の雰囲気を作りながら、アルバムは多彩な展開を見せていて、飽きさせません。
勿論、#4.‘Fallin’ ‘ は James Brown2 の影響下にあるのですが、アルバムを先頭から聴くと、ベートーベンの「月光ソナタ」の弾き直しである #1.‘Piano & I’ 、Wu-Tang Clan/Ol’ Dirty Bastard3 の ラフなヒップ・ホップを引用した #2.‘Girlfriend’ 、そして、小粋にスイングするプリンスのカバー #3.‘How Come You Don’t Call Me’4 の後に聴くと、すべてのジャンル/分野も横断して、「一人の人格に内在する音楽」として、昇華されているのが分かります。
上記、初端の4曲のインパクトが大きいので、後半の印象が薄いのですが、何回か聞き直していると、彼女が書くメロディは、どれもスタンダードになりうる、練り上げられたものばかり。 ブラックスプロイテーションのような黒いメロウネスが溢れる #7.‘A Woman’s Worth’5 、クラシックピアノのフレーズを生かした #12.‘Never Felt This Way’ などは特に秀逸です。 過去の豊かなソウル・ミュージックの遺産を受け継ぎながら、それに縛られていないし、随所に印象的なフックを含んでいて、知らず知らず口ずさめる、そんな親しみ易さも兼ね備えている、と。
そして一番の魅力は、彼女のしなやかで美しく艶やかな「歌声」。 自分で作ったメロディを、どうすれば最大限生かせるかを本能的に知ってる、しかし、本能のまま走ってしまわない聡明さも持っている、そんな稀有な人なのでしょう。 散発的にレコーディングを行い、一旦完成させたアルバムもボツになった、と言うのは有名なエピソードですが、年月を経ても揺らがない、彼女の七色の歌声こそ、このアルバムの「鍵」なのです。
派手な展開や、豪華なゲストがいるわけでもなく、さして知名度が高くない新人のデビューアルバムが、チャート初登場1位を獲得した、と言う事実。 ここら辺が(所謂)「ゼロ世代」のR&B、その出発点だったのかもしれません。6
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Schoolly D - P.S.K. ‘What Does It Mean’? のリズムを引用しているのが、歴史の連続性を感じさせて良いですね。 ↩︎
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2001/08/08 と 2007/04/02 に書いた文章に加筆訂正しました ↩︎