"Breaking Atoms"(1991) / Main Source

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‘90s初期ヒップ・ホップの大傑作、‘91年作。1 これは、今聴き返しても、すごく楽しいのです。

Main Source は、 K-Cut / Sir Scratch の二人のDJに、後から参加したラッパーの Large Professor の3人組。 しかし、このアルバムは、ラップからトラック作りに至るまで Large Professor の完全な独壇場。

まず、定番も、ちょっと変化球的なネタも、良い部分だけを使ってバランス良く作られたトラックの数々。2 例えば、#2.‘Just Hangin’ Out ‘ の上モノ/ビートとも “90%” of Me Is You の組み換えなのですが、 割と夜有名な Gwen McCrae のバージョンではなく、 Vanessa Kendrick のカヴァーを持ってきたり、 #5.‘Just a Friendly Game of Baseball’ のメインは Lou Donaldson のオルガン・ジャズだったりするのですが3、この手のニュー・ソウル/ジャズ・ファンク/プレフュージョンと言った楽曲を引っ張ってきて、ファンキーだけど、メロウな要素もあって…、と言う、後々の'90s中盤の音作りの礎になったと言えるでしょう。

また、その質感を作るために、ビートと上モノに、別々のサンプルを使い、更に手弾きの楽器パートを隠し味的に混ぜる、と言う当時としては高等テクニックを使ってるのに、極々自然な感じなのです。4

ここらへん、Large Professor の高度なセンスを感じられ、後々、 Pete Rock や 9th Wonder 、 No.ID に影響を与えた、「黒い洗練」は、出発点にして既に極まっていると言って良いでしょう。

彼のラップは軽快で歯切れ良い感じで、この辺'91年のスタイルですが、パーティートラック #10.‘Live At The Barbecue’ では、まだ無名だった時期の Nas と Akinyele が参加して熱いフリースタイルを。 後に Nas のデビューシングル ‘It Ain’t Hard To Tell’ 5を Large Professor が手掛ける複線だったりするのは、もうお馴染みのエピソードでしょうか。

レーベルである Wild Pitch が倒産したため、どうにもこうにも入手困難だった盤なのですが、2006年、 P-Vine がやってくれました。 サントラ収録曲だった #14.‘Fakin’ the Funk’ や The Brand New Heavies への客演曲6、未発表トラックなど6曲を加えたリマスター盤で再発してくれたのです。 今では、 Wild Pitch もメジャーレーベルの元で再生して、配信サービスでもカタログが各種揃うようになりましたが、当時はとても嬉しかったですね。

軽快であるとともに、黒いメロウさも備え、その後の'90sヒップ・ホップの将来を運命付けた一枚、やはり名盤中の名盤でしょう。7


  1. Breaking Atoms - Wikipedia ↩︎

  2. Breaking Atoms by Main Source: Album Samples, Covers and Remixes | WhoSampled ↩︎

  3. Lou Donaldson - Pot Belly ↩︎

  4. ビートは E-mu SP-1200 の質感を生かしたラフなものなのに、各楽器の鳴りが実にスムーズに馴染んでいるんですね。 ↩︎

  5. Nas - It Ain’t Hard To Tell (Official Video - Explicit) - YouTube ↩︎

  6. The Brand New Heavies - Bonafied Funk (feat. Main Source) 私が Main Source を知った曲なのです。 ↩︎

  7. 2001/05/29 と 2007/09/29 に書いた文章に加筆訂正しました。 ↩︎