The Tony Rich Project 名義ではあるけれど、Tony Rich 一人で、殆どの楽曲を作詞作曲し、楽器、歌、ハモリを多重録音して仕上げた、まさに“シンガー・ソングライター”。
「あまりにも芯が無さ過ぎ」と言う人もいます。 まぁ、全くその通りなんです。 しかし、いつの時代にもロマンティックな、柔らかい手触りの表現を求める人はいます。
事実、これが出た'95年当時、 Hip-Hop は、西海岸のギャングスタ・ラップや、東海岸のプレイヤー・スタンスのラップ、即ちカネとオンナとクルマとシャンペンが全盛、 R&B は露骨かつ即物的な性的表現ばかりで、ブラックミュージック全体が相当荒んでいた時期でもあったのです。
また反面、ロックの世界でも、オルタナティブ・ロックがどんどん殺伐とした表現に走って行き詰まり、Sheryl Crow1 や Lisa Loeb2 等が出てくる時期ともシンクロしていたりもしますし、このようなオーセンティックで優しい表現を、アメリカの聴衆は皆、心の底では求めていた結果だと言えます。
それにしても ‘Nobody Knows’ は今聴き返しても、良いですね。 何気ない日常の一場面を切り取って、ギター一本でさらっと歌って、すぐ盤に閉じ込めたような音楽、そのまんま。 多分、10年後、20後聴いても、同じように良いと思えるでしょう。 それ位エヴァーグリーン度高い楽曲です。
「あ、また聴きたい」と思わせる長さも、丁度良くて、「あ、名曲ってこう言う物なのかな」と思ったりもする一曲です。3
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2001/06/08 と 2007/08/14 に書いた文章に加筆訂正しました。 ↩︎