今振り返れば、彼女の1st1は、曲調にせよ歌い方にせよ、相当バラけていて、全然定まっていなかったのです。 歌い手の個性や感情よりも、様式を優先させてしまう(所謂)「ソウル・ミュージック」ではなかったのです。 故に、それが得難い個性だったのですね。 これからの未来も感じさせたし、素晴らしかったと思うのです。
2nd2で、あえて「ソウル・ミュージック」の様式に正面から飛び込んで ‘You Don’t Know My Name’ や ‘If I Ain’t Got You’ と言う名曲と、ヴォーカルの機微を会得した彼女。 このアルバムは、「ソウル・ミュージック」の縛りを一旦開放し、元々持っていたミュージシャンシップと独自性を、更に進化/深化させた、と言えるのでないでしょうか。
お約束のクラシカルなピアノインスト #1.‘As I Am(intro)’ からの Hip-Hop色濃い重たいボトム/アタックの効いた #2.‘Go Ahead’ は、お約束のツカミですが、それ以降は、もう様々な音楽要素が渾然一体となった、「Alicia Keysの音楽」としか言いようのない楽曲で埋め尽くされているのです。
後期Beatlesっぽい #3.‘Superwoman’ / ‘70sのStevie Wonder 風味のアナログシンセがうねる #4.‘No One’ / Princeを下敷きにした #5.‘Like You’ll Never See Me Again’ で、いきなりクライマックスを迎え、その後にも、 #9.‘Teenage Love Affair’ や #11.‘Where Do We Go from Here’ のように印象的なメロディを含む楽曲を経て、 #12.‘Prelude to a Kiss’ / #13.‘Tell You Something (Nana’s Reprise)’ / #14.‘Sure Looks Good to Me’ と言うドラマティックな曲3連発で大団円を迎えるのです。
聴いて感じたのが、歌の力強さと生々しさ。 ヴォーカルに、かすれやぶれなど、所々不安定に感じる箇所があるのですが、これは敢えて残したのではないかと思う位、楽曲の魅力となっているのです。 また#9のようにスィートソウル を下敷きにした楽曲に、あえてソウルっぽくないメロをあてはめてみたり、#11のように古いソウル経由したHip-Hopを、もう一度ソウル仕立てに戻してみたり、と言う、一手間かけた工夫が随所に光る感じがあります。
それが故に、パッと聴く限りでは、Hip-HopらしさもR&Bらしさも希薄なのですが、Hip-HopもR&Bも通過して、その根源にある(様式でない本物の)「ソウル」に辿り着いているのでしょうね。
1stを聴いた時に感じた、誰にも似ていない音楽と表現が出来る一人独立したミュージシャン、としての感覚はそのままに、ヴォーカル表現の強さと、曲作りのヴァリエーションを得て、更なる高みに到達した感のあるアルバム。
誰の真似でもない、おもねってもいない、高潔な感じすら漂うこの作品が、チャート初登場1位。 ミュージシャンが感じるままに作って、それが良い作品として世に認められて、売れる、こんなシンプルなことが非常に困難な時代に、これは奇跡じゃないかとすら思うのです。3 4
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2007/12/08に書いた文章に加筆訂正しました ↩︎